「ニャー、ニャー」


ちりんちりん。

鈴を鳴らして、不機嫌そうにパシパシと攻撃してくる猫パンチを難なくかわし、アランは素早くシャルルを抱き上げた。

抱き上げたと言っても、腕の中に収めるのではなく、逆向きのリードスタイルだけれど。



「悪いが、エミリーを返してもらうぞ」



そう言いながら籠の中に入れ込み、アランは窓際に戻った。

ちょっぴり悪戯っこい瞳が、エミリーを見下ろす。



「あ、あの。アラン様?“ゆあみ”と言うのは―――“共に”と言うのは―――・・・えっと?」

「無論、言葉通りだ。さあ、参るぞ」



手を差し出して、エミリーに立つのを促すアラン。



「え?あ、でも。あの、着替えとか、タオルとかを用意しないと――」



そう、ここは旅先。いつもとは違うのだ。

少しまっててください。と言って、エミリーは椅子から立ち上がった。

とはいっても。

数ある箱の中、何がどこに入ってるのかちっともわからない。

自分のものも分からないのに、アランの分なんてもっと分からない。


“あとで夜の準備をしに来ますから”と言ったまま、メイたちはまだ来ていないのだった。

きっと疲れてしまって、眠っているのだろうと思える。



メイったら、こんなことなら、箱に書いておいてくれれば自分でするのに―――



ドキドキわたわたとするエミリーの身体は、そのままで良い、と難なく捕まえられてしまった。

そのまま引きずられるようにして、部屋を縦断していく。



「後に、持たせるゆえ、構わぬ」



え?とかあの?とか呟くのを無視するように部屋の外に連れ出され、エミリーは諦めて付き従うことにした。

途中でメイとナミの部屋に寄ると、案の定二人はうたた寝をしていたよう。

慌てふためいて出てきたナミに、アランは準備を命じた。



階段を降りて、廊下を歩き、また階段を降りて行くと、それは見えてきた。

二つ入口があって、其々に文字が書かれてある。

一つは赤い字で『女』もう一つは青い字で『男』と読める。



良かった。やっぱり別々に入るのね。



ホッとしていると、アランはエミリーの身体を離さずそこを通り過ぎ、奥の突き当たりにある別の戸の前で止まった。

そこは黒字で『賓』と、読めた。


ここは―――・・・。

こくん、と息をのむ。



そう。

やっぱり一緒に入るのだ。

中に入るよう促され、ぴっちりと戸の閉まる音を聞く。


背後から衣擦れの音がするのを聞きながら、エミリーはドキドキする胸を押さえていた。


アランが服を脱いでいる。

湯浴みをするのだから、それは当たり前なのだけれど。


考えてみれば、アランの前で自分で服を脱いだことなんて一度もない。


恥ずかしくてたまらなくて・・どうしよう・・・なんて思うけれど、とりあえず髪のアクセサリーを外し始めた。

何度も何度も身体を合わせているけれど、やっぱり、緊張して、手が震えてしまう。

―――――と。