あたしは、思わず彼に手を伸ばす。



「……これ、夢……?」



すると彼は、その手を握り。



ぐい、とあたしを抱き寄せた。



「……瑛さん……」


「本当に着てるじゃないか。

見事なものだな」


「これ、これは、仕事で――」



知っている。



静かにそう言うと、彼はあたしを見つめた。



「……迷惑、だったか?」


「え……?」


「これでも、

急いで迎えに来たつもりなんだが……

その……。

もう、必要なかったか?」



紫色の瞳が、不安げに揺らめいた。



やっぱりバカじゃないの、この人。



携帯の電波も届かない山奥に帰って、

一度も連絡をよこさなかったのは、そっちじゃない。



貴方の方こそ、もうあたしの事を忘れたんじゃなかったの――?



色々言ってやりたい事はあったけど。



次々に溢れる涙が、邪魔をした。