「そんなの、もういい。

瑛さんがいないと、寂しいよ」


「……すぐ忘れるだろう。

たかが、ひと夏、

一緒にいただけだ」


「じゃあ瑛さんも、

あたしの事、すぐ忘れるの?」



人は、忘れていく生き物。



誰だっけ、そんな事言ったのは。



そりゃあ、いつかはこの紫色も色褪せて、

あたしの頭からなくなる日が、来るかもしれないけど。



今はそんな事、想像もつかない。



「忘れないで……」



胸が張り裂けそうで。



涙が、止まらなくなった。



すると、瑛さんの顔から、笑顔が消える。



「……忘れるわけ、ないだろう。

お前は……」


「……?」


「初めて……

俺が初めて、傷つけずに、守りたいと思った人間だ。

初めて、俺に、安らぎとか、信じる事とか……。

苦しいけれど、幸せな恋を、教えてくれた女だ」