「……好きだ」





ぽつり、と呟いて。



その唇が、一瞬で、あたしの唇を奪った。



押し付けられ、すぐに離される。



「……わかったか、バカ」


「バカって……もう!」



軽く叩いてやろうとした手は、いとも簡単に避けられて。



気づけば、

あたしは瑛さんの腕の中に、すっぽりと収まっていた。



「……ここまでに、

ものすごく、遠回りをしたな……」



そんな彼の言葉に。



また、涙が溢れてしまった。



本当だね。



本当に……。



遠回りをしていたね。



「何度、さらって逃げてやろうと思ったか……。

結局、あんな辛い目にあわせたのは、

何も捨てられなかった俺の、臆病のせいだな」


「……違うよ、捨てられないのは臆病じゃない。

優しいからだよ」


「優しい?」


「瑛さんは、本当は、優しいの」


「……は、何も出ないぞ」