ばさ、と翼が土を巻き上げる。


瑛さんのつま先が、宙に浮いた。


「待って……!」


行っちゃダメ。


行ったら、貴方の命は……。


しかし瑛さんは全てを受け入れたような顔をして。


薄く、笑った。



「ありがとう……」


「え……」


「お前は、幸せになってくれ。

……俺の分まで」


あたしにだけ聞こえるような小さな声が、涙を誘った。


「いや、なに、言って……

お礼なんかいらない、お願い、ここにいて」


「すまない……」


「謝らないでいいから……!」


すがりつくと、瑛さんは困ったように笑った。


「……前言撤回する」


「え?」


「俺は、幸せだった。

俺の幸せを願ってくれて、俺の死を悲しんでくれる、お前に出会えた」


瑛さんの冷たい指先が、頬に触れた。