「違う、これは……!」
琴さんの高い声がした。
熱い空気が、冷えていく。
あたし達の周りから、冷たく、冷たく……。
その空気は、砦を満たし、夜空まで届く。
「これは……!」
瑛さんが、自らの頬に落ちた雫の冷たさに声を上げた。
夜空で冷やされた雫達は。
軽やかな実体を身に纏った。
「これは、六花……!」
雫達は、白い雪と化して、あたし達に降り注ぐ。
『《りっか》って、何の事でしょう?
《翼》はわかるんですけど』
まだあの古い洋館に住んでいた頃、瑛さんに聞いた事があった。
『《六花》は、雪の別称だろう』
『そうなんですか?
雪かぁ……
六花って言うと、何か可愛いですね』
『言い方など、どうでもいい』
そうバッサリ会話を終わらせられて、今の今まで忘れていた。
その、六花が。
あたし達に、降り注ぐ。



