「もらっていくぞ」


瑛さんは耳元でそう言うと、あたしの口に布のような物をあてた。


甘いようなニオイがしたと思うと、全身の力が抜けていく。


すると、ギシギシと木がきしむ音がして。


蔵全体が揺れだした。


《夢見姫を返せ!!》


蔵が、書庫が、本の一冊一冊が、そう叫んでいるみたいだ。


「待て!!」


オーリィの声が、遠くなる。


目が、霞んで……。


《夢見姫を返せ!!》



その声だけが、頭に響き続けた。


最後に見えたのは、紫色。


紫色の炎が、叫ぶ蔵ごと燃やそうと、口を開けていた。








悲しいのか、苦しいのか、怖いのか。



わからないまま、あたしは瑛さんの腕の中で、意識を手放した。