六花の翼〈リッカ ノ ツバサ〉【完】



右手で彼の肩を叩く。


もちろん、そんな攻撃が効かない事はわかっていた。


「すまない……」


瑛さんはもう一度、まつ毛をふせて謝る。



「……ただ、笑ってほしかったんだ」


「…………」


「お前はいつも、笑っているから」


「そうですか……?」


「……そう……でもないか?

そんな気がしていたんだが……」


いつの間にか、涙は渇いていた。


そう、いつの間にか。


自分がされた事より、彼の心の振動が気になっていた。


「どうかしたんですか?大丈夫ですか?」


「ん?」


「琴さんと喧嘩でもしたんですか?」


「いや……何で、そう思う?」


「だって、人の笑顔が見たいのって、

自分が悲しいとか、寂しい時じゃないですか?」


「…………」


母親に怒られた子供みたいだった瞳が、驚きの色を映した。