伊奈が指定した場所は、とある政党の本部があるビルだった。


留衣さんの調べでは、彼自身は政治家ではなく、

ある大物政治家の秘書をしているらしい。


それでこんな所に……。


しかし、明らかに私服の高校生が、こんな夜中に入れてもらえるのだろうか。


あたし達はそのビルを見上げた。


まだ人が残っているのか、ポツリポツリと窓から蛍光灯の光が見える。


時計は、9時2分前。


「ここでぼんやりしてても仕方ない。

行くぞ」


瑛さんが先導し、あたしと太一がそれに続く。


ビルの入口を入ると同時に、9時1分前になった。


明らかに場違いなあたし達に、スーツ姿の男が近づいてくる。


男は前に新幹線で見た、伊奈の式神そのままで、思わず身構える。


しかし男は丁寧に、ゆっくりと口を開いた。


「お待ちしておりました……夢見姫殿」