六花の翼〈リッカ ノ ツバサ〉【完】



草をガサリと踏む音がして、男が現れた。


その男は、新幹線の中で見た、式神に乗り移っていた

……メガネの男だった。


「まさか、こんなところで会えるとは思いませんでしたよ」


「姉ちゃんに何の用だ」


「今日は、ちゃんと交渉に来たんです。

驚きましたよ。

安城家から貴方達姉弟の気配が消えていた。

出てきてくれて、助かりましたよ。

学校に潜入したら目立ってしまいますからね」


メガネの男は、相変わらず優しげな話し方をする。


「まず、名を名乗れ」


「そうですね。

私は、伊奈孝太郎(いな・こうたろう)と申します」


伊奈は、名刺を差し出した。


だけど、もちろんあたし達は誰も近寄らない。


伊奈は苦笑し、名刺入れをスーツにしまった。


「交渉って……どういうお話ですか」


「聞いていただけますか。


貴方のお兄さんは私を政治関係者だと知っただけで、

話も聞いてくれなかったのに」