瑛さんの顔が、体が近い。


恥ずかしくてうつむいてしまう。


高鳴る鼓動をごまかすように声を出した。


「何でそんなに……仕事熱心なんですか」


「……俺には、これしかないから……」


頭の上から、声が降ってきた。


これしかない。


確かに、瑛さんはそう言った。


「お前は一体、何が不満なんだ」


「え……」


「お前はいつも思ってるだろう。

もっと自由になりたいと」


「…………」


見透かされている。


ますます顔を上げられなくなったあたしに、瑛さんは静かに話し続ける。


「実の兄も、義理の家族も、友達も、お前を必要としてる。

大事に思ってる。

それじゃ満足できないのか?」


「……!」


「甘ったれ。

自分がどれだけ恵まれているか考えろ」


涙が出そうになる。


何でだろう。


何であたしは、そんな当然の事を言われなきゃわからないんだろう。