「……力の無駄使いをしたな」


先に口を開いたのは、瑛さんだった。


外に出るとき念じた事を言ってるんだ。


「……すみません……」


「文句があるなら、直接言え。

余計な手間をかけさせるな」


「文句だなんて……。


瑛さんの言う事がいちいち正しいから、

自己嫌悪に陥っただけです」


「…………」


雨はどんどん強まり、頬や胸に降りかかってくる。


屋根の意味は、ほとんどなかった。


「どうしよう……雨……」


ぽつりとこぼすと、瑛さんから小さなため息が聞こえた。


そして……。


「我慢しろ」


そう言ったかと思うと、あたしの背中と自分の両手を壁につけた。


あたしにかかるはずの雨粒が、瑛さんの背中を濡らしていく。


「瑛さん、良いです、大丈夫です」


「すぐやむだろう。

良いから、我慢しろ」


お互いの息がかかりそうになり、鼓動が早くなっていく。