ロイドは少しの間立ち尽くしたまま、拳の先を唇に当てて、なにやら考え込んでいた。


「今の人は?」


 結衣が話しかけると、ロイドはハッとしたように、こちらを向いた。


「あぁ。遺伝子工学部門の主任研究者だ」
「遺伝子工学って、クローンとか?」
「まぁ、そんな事もやってるかな。行くぞ」


 ロイドは多くを語らず、結衣の手を握って歩き始めた。
 国家機密だらけの科学技術局内部の事を、あまり部外者に話せないのだろう。

 それでも何か思い詰めたような様子が気になる。

 明らかに口数も減っている。先ほど話題に上った人の事に、関係あるような気がした。


「ランシュ=バージュって誰?」