「ほら、気が済んだなら行くぞ」


 ロイドが結衣を促して建物に背を向けた時、門が開いて若い男がひとり姿を現した。


「あ、局長じゃないですか。ちょっとお話があるんですけど」


 男は目ざとくロイドを見つけて、声をかけながら、こちらにやってきた。

 当然と言えば当然な気もする。
 休日の官庁街は人影もまばらで、目につきやすい。
 それでロイドも渋っていたのだ。

 ロイドは気付かないフリをして結衣の手を掴み、スタスタと歩き始めた。


「ねぇ、呼んでるわよ」


 結衣が指摘しても、ロイドは振り返らず、そのまま黙って歩を早める。