誰も聞いていないと思ったら、ちゃっかり聞いている人がいたようだ。

 確かに、すごいとは思う。

 だが大食いで早食いだからといって、どうして喜んで抱かれなければならないのか、意味が分からない。

 結衣は苦笑を湛えて曖昧な会釈をすると、ロイドに向き直った。
 ロイドは店員の差し出した紙に、サインをしている。
 多分、記録を店内に貼り出すのだろう。

 店員が器を持って下がると、店内は少し落ち着きを取り戻した。

 平然とお茶をすするロイドに、結衣は自分のケーキを差し出した。


「ロイド、足りないなら私のを食べて」
「いらないのか? ほとんど食べてないじゃないか」
「うん……。あなたが食べてるのを見てたら、お腹いっぱいになっちゃった」
「そうか。じゃあ、もらおう」


 そう言ってロイドは皿を引き寄せると、わずか三口でケーキをペロリと平らげた。

 胃袋が四次元にでも、繋がっているとしか思えない。

 お茶を飲み終わり、店員に声をかけると、二人は店を後にした。