「あいつがベソをかいたり、癇癪を起こした時は、頭を撫でてやるといい。途端に機嫌が直るぞ」
「はい」


 返事をしながら結衣は、クスリと笑う。
 光景が目に浮かぶようだ。

 小さい子供には、服を着たり、靴紐を結んだりするだけでも大変な仕事だ。
 思うように出来なくて、幼いロイドはベソをかいたり、癇癪を起こしたりしたのだろう。

 けれど頑固者だから、ブラーヌに助けは求めない。
 手を貸す変わりに、ブラーヌは頭を撫でてやったのだ。

 ブラーヌの無言の励ましと愛情を感じて、ロイドは機嫌を直し、再び頑張れた。

 そしてそれは、どうやら今でも有効だという事実に、結衣は思い当たった。

 以前ロイドは、王子が異世界に飛ばされたかもしれないと思った時、頭が働かないほど気持ちに余裕をなくしていた。

 その時、結衣が頭を撫でたら、冷静さを取り戻した。

 自分がそうだからなのか、結衣が泣いたり、不安そうにしていると、必ず頭を撫でる。