結衣は言われた通り、ブラーヌの向かいの椅子に腰掛けた。

 ブラーヌは再び本に視線を落としている。
 相手をしなくていいと言われたし、邪魔をしては悪いので、結衣はぼんやりとブラーヌの様子を眺めていた。

 少しして奥の台所から、水音や包丁の音が聞こえてきた。
 音から察するに、かなり手慣れている。

 ヤバイ! 自分よりはるかに腕がいいかも、と少し焦りを感じる。

 実のところ結衣は、ケーキ以外の料理は、食べられるものが作れるという程度で、決して他人に自慢できるような腕前ではなかった。

 得意料理はサンドイッチ、と答える事にしている。

 結衣が台所の音に気を取られていると、ブラーヌがパタリと本を閉じた。

 結衣を真っ直ぐ見つめて淡く微笑み、静かに話しかけてきた。


「あいつ、甘ったれで困るだろう」
「え?」