先に口を開いたのは黒王であった。
「見間違えではなかったとは」
ふと、ため息をつくとスーツを後ろの白石へ投げ付けた。目の前で炎が空気を燃やしているわけだから、暑いのも当然である。
「部下の見間違いだと思った。臆病だからな、俺の部下は」
臆病の一人は黒王の後ろで丸めたスーツを抱きながら申し訳なさそうに頭を掻いている。
ただ、白石は知らない。黒王は年下と話す際にはくだけた話し方をする。それを知らない白石は自分への言葉と信じ疑わない。
言葉は、少年へ向けられているというのに。
恐怖から「止まれ」という言葉しか発されなかった、その少年に普通の問い掛けを。
「お前、どんなトリックを使った。奇術師にでもなったか」
「……」
「なんだ、自分でもわからないというような顔をしているが」
沈黙を貫く。
少年は間違いなく動揺していた。始めは黒王から目を逸らさないでいたが、今は視線が地面や手元に向いている。
まるで、自分で異様な自分自身を客観視するかのように。
「お前の父親だったな、そのスケートボードに危険物質を取り付けた荒くれ者は」
「……!」
「あの親あって、この子あり。未だに親子仲が良いというのは賞賛に値するがな」
呟いた。
少年は何かを呟いた。黒王にもそれに気付いたが、聞こえない。小さなそれは吹く風に飛ばされる。
「どうした。暁(アカツキ)明(アキラ)」
少年の名前が呼ばれた、その時。
それは正しく空気の変化。
少年アキラは自身の頭を抱え込み、宙を見、口を開く。
「……畜生、畜生」
どうした、と再び尋ねた黒王の声は、
「畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生オオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
地を揺るがす轟音に掻き消されされたのである。
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