「ひ、人が燃えてますよ! というかこっちに来ますよ!」
「静かにしてください、白石。小学生じゃあるまい」
近づくにつれて光源の正体は明らかになる。
釣り上がった瞳は紅に光り、理性を無くして暴れる獣そのものである。
怖じげついた白石は黒王の背後に隠れ、顔だけを覗かせている。臆病とはいえ、それは人間ならば自然な反応であり、一瞬動揺しただけの黒王の方が奇妙である。
黒王は少年を見た。
その瞳を見た。
「まるで何かに憑かれたようですね」
「そんな怖いこと言わないで下さいよー、黒王警部ー」
黒王は一歩前へ出た。
少年は黒王のニメートル先に到着し、スケートボードを横に向けて停止させた。飛び散る火の粉はわずかに黒王の頬を掠るが、気に留めない。
睨み合い。足を震わす白石から見たそれは睨み合いであった。犬と猿か、ハブとマングースか。宿敵を前に戦いの前兆の風を吹かすような、第三者は近づけない雰囲気。
しかし、それは違った。
今回の事件において初めて少年――炎をまとった状態の少年――を見た二人は、少年の異様さに気付いていなかった。
少年はこの度、黒王を前にして初めて戸惑い、スケートボードを停止させたのだ。
問答無用で炎を撒き散らし、行く手を塞ぐ者を吹き飛ばしていた少年は、形相こそ変わらないものの初めて暴走を止めたのである。
無言で威厳を放つ、黒王を目の前に。
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