「少年は今五丁目の一番交差点の方へ進行中とのこと、どうしますか? 少年がどう進むかはわかりませんよ?」


 白石のヘルメットの中でこもった声は何とか黒王の耳に届いた。黒王は下がったままであった口の端を少し上げる。


「よし、三丁目の大広場前だ」

「え?」


 黒王のバイクは途端にスピードを上げた。エンジンを鳴らして風となる。もしこれが一般のバイクなら議論の余地なくスピードオーバー。しかし黒王は仕方なくというよりは当然だと言うようにバイクを走らせている。


「大広場前といえば、少年の進行方向から見ると左折ですよね? 何故左折だと?」

「消去法だ、直進と右折は有り得ない。直進よりはむしろUターンする方が奴らしい」

「は、はあ……」


 もとより黒王の考えというものは、他人には理解しがたいものである。

 黒王は若い。上司と部下の関係にあたる二人だが、歳の関係を見るとむしろ白石の方が若干年上である。

 ベテランと呼ばれる人々と若き黒王が肩を並べるわけだ。周りから良い目で見られるわけがない。

 しかし白石は違った。

 黒王の的確な判断力。優柔不断と自称している白石にとってそれは憧れに値するものであった。

 偶然か必然か、気付けば二人はよく共に行動する間柄になっていたのだ。

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