軽い好奇心だった。
夏休み
ちょっと冒険したくて、町外れの密林に足を踏み入れた。
“恋人たちがよく忍び合う”
そんな噂の密林の奥には、愛し合うのにお誂え向きな荒野が広がっていると――。
夕暮れ、東の空に月を認める頃
あたしは、幼馴染みの彼を誘って、密林の奥の荒野に向かった。
単純に、一人じゃ怖かっただけ。
自分たちの背丈ほどもある草を掻き分けながら。前へと進む。
生暖かかった空気が、奥へ進むほど、ひんやりとして、あたしは思わず、彼の腕に自分の腕を絡ませた。
ふくよかな胸が彼の二の腕に密着していることには気づかなかった。
やがて――
その草が途切れ、荒野があたしたちの目の前に現れる気配がした。
と、前を歩いていた彼が、あたしを制す。
「誰かいる」
その声にあたしたちは反射的に身を屈め、息を殺した。
草の間から目を凝らすと、男女が毛布を敷き、その上で美しく絡み合っているのが見えた。
「噂は本当だったね」
何となく嬉しくて囁いたあたしの口を、彼が素早く手で塞ぐ。
汗ばんで湿った掌に何かを感じ、彼を見上げると顔が怒りに歪んでいた。
「よく見ろ」
そう言われ、絡み合う男女を凝視する。
月明かりに照らし出された女の背のホクロに、あたしは気付いた。
「お……姉ちゃん」
そこにいたのは、清楚な姉。
しかし今は、見たこともないような顔をし、聞いたこともないような声をあげている。
そして、姉をそんなにしているのは――
眉間にシワを寄せた男の顔を、月明かりが明るく写し出す。
それは……彼の父親だった。