熱いシャワーが心地いい。


あたしは、今夜もたっぷりと蜜を堪能した。


果物で言うなら、ちょうど、うれ頃の甘い林檎ってとこ。


「……楽しんでるよね」


まだベッドの中のかわいいつばめが、そう言って笑う。


あたしは黙ってメイクを直し、ピアスをつけた。


「また電話して」


「ええ」


後腐れない、純な肉体だけの関係。


純な肉体関係なんて、ちょっと矛盾かしら。


ホテルを出て、夜の街に飛び出すと、風が濡れた髪を撫で、首筋がひんやりした、


――夜道を歩いてる間に乾くわね。


ヒールを軽快に鳴らしながら、ちょっと気だるく歩いてみる。


左手薬指のリングの重さなんて、もう、気にもならなくなった。


――人生は一度だけ。


なら、楽しまなくちゃ。


家が近付き、バッグから鍵を取り出す。


今夜は遅くなると、夫には伝えていたけど、案外早い帰宅になったから、驚くかな。


ゆっくり鍵を差し込んで鍵を明け、中に入る。


「あなた? ただいま」


電気がつきっぱなしの、人気のないリビング。

あたしはテーブルに鍵をおいて、まっすぐ、二階の寝室へ向かった、


身体の中心部と腰に痛みを感じる。


――そう言えば今夜の彼は、凄く激しかったわね。


せっかく早く帰ったんだから、ケーキくらい買ってもよかったな。


ほんの罪滅ぼし。


「あなた?」


なんの躊躇もなく、寝室のドアを開けた瞬間、あたしは、凍りついた。


ふわりと舞い上がったシーツに垣間見えた、見知った顔……。


驚き、うろたえながらわたしの名を呼ぶ夫の後ろで、細い裸の肩が、よく知る顔の肩が、震えていた……。