衣擦れの音がする。
広い仏間。
さっきまで、親戚一同が集っていた、仏間。
抵抗する頬に張り付いた黒髪を、彼の指がすくい、そのまま唇を奪われる。
いけない。
こんなとこで。
仏間の隅に重ねられた、沢山の座布団。
まだ、人の熱気が残るこの、神聖でならねばならないこの空間。
後れ毛がかかるうなじの白さが、喪服の黒にひきたてられたから?
だから、こんな?
わたしを荒々しく押し倒す、喪服の腕。
……駄目
やめて。
滑らかに音を発しながら解かれる帯
はだけた裾から覗く、白い脚と足袋。
乱れて露になる襦袢。
乱れる黒髪。
……やめて、駄目。
貴方が見てる。
貴方が見ているここで、わたしに触れないで。
いけない。
そう、思うのに、身体は熱を帯びてる。
なぜ?
わたしが愛してるのは彼じゃない。
わたしが愛してるのは
愛してるのは……
貴方。
写真でしかもう、顔を見る事ができない、永遠を誓い、契りを結んだ貴方なのに。
永遠は、短かったけど、まだ、こんなにも愛してる。
ほら、見てる。
貴方が見ている。
畳の上で乱れるわたしを、今まさに、義兄の手によって貴方を裏切ろうとしてるわたしを……。
貴方が、微笑んで見てる。
見ないで。
駄目。
やめて……。
義兄の熱が、わたしを貫き、わたしは思わず目を閉じた。
唇が、微かに開いてる。
貴方
愛しい貴方。
お願い、見ないで。
もう、見ないで。
やめて……。