天使の舞―前編―【完】

彼方は眼鏡の奥の魅惑的な瞳を、少し細めた。


彼方にとって、魔力で無理矢理人心を動かす事は、不本意なやり方であり、出来れば一番使いたくない手であった。


その思いを押してまで、乃莉子を手に入れたかったのは、悠が契約を交わした人間だったからである。


何故、人間でなければならないのか。
それは人間が、高い繁栄能力をもつ種族だからである。


人間は翼も持たず、魔力も使えない。
しかし彼等は、65億とも70億とも数えられる程に仲間を増やし、自分達の世界にて栄えていた。


一方で天使と悪魔は、その絶対数が圧倒的に少数なのだ。


天使同士、悪魔同士で子供を授かっても、翼を持たずに生まれてくる者が少なくない。
その赤子は人間界へと送られ、人間の子供として生まれ変わるよう操作される。


そこで、各王家に与えられた使命は、二つ。


一つは、人間の娘を妃にして、その繁栄能力を手に入れる事。
愛し合った人間の娘には、翼が与えられ、その羽ばたきの風を浴びた夫婦の間に、生まれくる者にも、必ず翼をもたらすからだ。