天使の舞―前編―【完】

しかし、しばらく走り続けても、悠が足を止める事はなかった。


「し・・・ごと・・・なの・・・。
ほん・・・やさ・・・ん・・・。
ついて・・・こな・・・いで・・・よ・・・。」


ハァハァと息を切らし、喋るのもやっとの乃莉子。


なんせ、マッハのスピード(乃莉子基準)で走っているのだから、そうだろう。


「お前、超足遅い。
しかも、すっげぇ息切らしちゃってよ。
ハハ・・・。
・・・そういやお前の名前、まだ聞いてなかったな?
教えろよ。聞いてやる。」


まるで、軽いランニングでもしているかのような悠は、ついでのように乃莉子の名前を聞いてきた。


「の~り~こ~!
ひろき~のりこ~!」


悠を叱り飛ばす余裕などなく、かすれた声で乃莉子は答えた。


…酸素下さい。


乃莉子に今一番必要な物は、時間でも速さでも余裕でもなく、これなのであった。