天使の舞―前編―【完】

そんな二人の甘い時間は、長くは続かなかった。


すぐ後を追って来た、アマネとシラサギに見つかってしまったからだ。


キャスは、片腕に乃莉子をしっかりと抱え、自らの白き翼で覆い隠した。


そして深海の瞳は、舞い降りて来る、黒い翼の二人を鋭く見つめている。


「キャスパトレイユ、乃莉子をこちらに渡してもらおうか。」


優雅に地上に降り立って、アマネは、真顔で言葉を投げた。


覇権とは、覇王とは、そんなにも魅力的で名誉なモノなのだろうか。


覇権を握っているキャスの父である天王は、妃シンシアと過ごす時間が少なくなると、覇王でいる事の忙しさを、いつもぼやいていた。


だからキャスパトレイユは、覇王という立場に、なんら魅力を感じた事はなかった。