天使の舞―前編―【完】

「よっ?よめ?
冗談じゃないわ!
何勝手な事言ってるのよ?
そんなの、私の方からお断りよ!
もう二度と、会う事もないでしょうけど。さようなら。」


乃莉子は込み上げる怒りを押さえて、悠に背を向けた。


「こっちの台詞だ。
俺だって、好きでお前をヨメにする訳じゃねぇよ。
でも、だめなんだな…。」


突然の風が、乃莉子の長い髪を揺らす。


思わず手で髪を押さえ、乃莉子は立ち止まった。


悠は翼で自分をくるみ、風をまとったのだ。


風が収まるとそこには、Tシャツとジーパンに身を包んだ、今どきの優しそうな青年がいた。


翼を外した甘いマスクの天使は、面倒くさそうに乃莉子に尋ねた。


「で?これから、どこ行くんだ?
しょうがない、俺も連れて行けよ」


でも彼は、乃莉子が苦手とする、俺様口調の、癪に障る天使だった。