天使の舞―前編―【完】

そんなシラサギの決意が、アマネの胸を締め付ける。


本当は覇権なんて、どうだっていい。


キャスの言うように、愛する女を妃にしたい。


でも、幼い頃から呪文のように唱えられてきた言葉から、アマネは逃れる事ができずにいた。


『覇権を魔界に。
お前は覇王になるのだ。』


魔王妃である、母ミヤビの涙も、アマネの脳裏を掠める。


母の涙の訳、それは…。


アマネの父、魔王アカツキは、妃にと望んだ人間シンシアから拒まれて、その喪失感なるや、大変なものであった。


悲観の中にあっても、アカツキは妃を得ねばならず、魔界で最も美しく、賢い娘ミヤビを選んだ。


目的は、美しく賢い王子を産ませ、次代の覇王に就かせるため。


アカツキにとって妃は、本気で愛したシンシアでなければ、意味がなかった。


王子を産むためだけの形だけの妃に、アカツキが関心を持つ事など、なかったのだ。