天使の舞―前編―【完】

突然怒り出した青年の態度に、意味が分からないのは、むしろ乃莉子の方であった。


「まぁ…そうね。呼んだけど。
あなたに名前を付けたつもりなんて、ないわよ。
だってあなたにも、名前はあるでしょ?」


乃莉子も最早、対抗するように口調が荒くなっている。


「あった。
でも、たった今“はるか”になった。」


「いやいや…。
意味が分かりません。」


乃莉子はウンザリして、もう一度ため息をついた。


「キャスパトレイユ。
さっきまで、俺の名前だった。
でも今、お前に新しい名を付けられた事によって、この名は消滅した。
俺は、今から悠(はるか)だ。
悠という名になったんだ。」


またもため息をついて、乃莉子は悠に愛想を尽かした。