紀州市・中部に位置し、一千ヘクタールを超す広大な敷地にそびえ立つ、銀灰色の建造物群。





私立・葉月学園。





幼稚園・小学校・中学・高校・大学は勿論、各種職業別訓練校、資格教育専門校、生涯学習施設、その他、諸々の施設がひしめく敷地内は、「学園都市」の名前そのままに、ここだけでひとつの町として十分な機能と人数を有していた。


企業にとっての最も重要な財産、優秀な人材を育成する為にハヤカワが巨費を投じて建設した町。そこには今日も種々雑多な人々が集まっている。


トロリーバスは校門前では停まらずに、そのまま学園の中へと入っていく。


「一年は3号館〜、二年が10号で〜、三年が17号だかんな〜!

間違えンじゃね〜〜ぞ〜〜!」


世話焼きを自称する三年の和泉(いずみ)先輩が、大声で皆に行き先を教えてくれている。


「いつもありがとーございます、センパイっ!」


密かに先輩に憧れを抱いている何人かの一年が、感謝とそれ以上の何かを込めた甘ったるい嬌声で答えていた。


アスカはその毎朝の光景を興味が無いふりをして眺めていたが、右斜め前方にサイコロのような建物が見えてきたので視線を切り替え、もう一度自分の座席周りを見渡し、忘れ物が無いか確認した。


『間もなく、10号館です。』


アナウンスに促され、席を立つ。他のクラスの幾人かもアスカに倣った。


やがてトロリーバスが完全に停車し、アスカらは顔見知りと挨拶を交わしながら地面に降り立った。


10月1日の授業がもうすぐ始まる。




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