トロリーバスは坂がちな街を上下しながら、ゆっくりと目的地へと近づいていく。


幾度目かの長い坂を登り切ると、急に視界が開け、道が平らになる。それを合図に、皆自分の荷物を確認したり、寝ている者を起こしたりと、慌ただしさが増していく。


最後部付近の椅子に座り、ハンディ(携帯)で新譜のアニソンを聴いていたアスカも、再生を止め、足元に置いていたリュックを背中に背負った。


(………さ、授業授業!)


心に広がる不安の霧を吹き払うように、ひとつ気合いを入れ、座席を立った。





───彼女はまだ、知らない。





この日を境に、彼女の人生が大きく違う方向へと動き出す事を───。






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