対象となる植物の受粉間もない種子に、ある特殊な放射線を照射し、あとはその生育を待つ。


成長促進因子を遺伝子に組み込まれた植物は、通常の50倍という異様な速さであっという間に発育限界まで成長し、そこから次の段階へと移る。それが、狂ったように光合成のみを行うようになる吸収促進遺伝子の発動である。


それによって、植物は通常種の250〜300倍もの二酸化炭素をその身のうちに取り込み、その体は徐々に石灰の乳白色に染まっていく。


そして、細胞の最後の一個まで人間が汚染しつくした地球の毒素を吸い続け、やがて枯死していく。クスノキなどの大きい広葉樹でも、成長段階を含めて平均5年しか生きられないという。


今や、世界中のいたるところに見られるようになった「白い大きな木」。人類の罪をその身に背負い、企業の思惑によって都合よく使い捨てられる、『いのち』───────。








この街に住む者なら、幼稚園児でも知っている事を考えながら件の木を眺めていたアスカだったが、いつしか、その視線に複雑な感情が乗り移っていた。


……そう、この街で暮らすということは、あの木と同じ。


つまり、ハヤカワという巨大な装置を動かす為の、取り替えのきく一つの歯車として生きていく事を余儀なくされるということなのだ。





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