『午前7時です。起床予定時刻です。午前7時です………。』


目覚まし時計の音声式アラームが、控え目な声で自己主張をしている。


未だ微睡みの中のアスカにはその声が地獄の獄卒の怒鳴り声に聞こえた。


「…………………ぅふぁ……ぁあぁ…………。」


一つ、寝返りをうつ。


かすかに開いたカーテンの隙間から見える外の景色は、確かに朝の雰囲気そのものだった。


「…………んむ……。」


アスカは、観念してベッドから身を起こした。


競争原理のはびこる今の世の中では、たった一つの遅刻でも許されるものでは無い。


のそのそとベッドから這い出して、バスルームに向かう。


身につけているものを全て洗濯機に放り込み、浴室に入って少し熱めのシャワーを浴びた。


降り注ぐ熱い奔流が体中を流れ落ちる度、死んでいた細胞が生き返るような心地良さを感じて、思わず鼻歌が漏れる。


その時、既に朝の身支度を整えて部屋から出てきた弟のケンジが、バスルームの扉ごしに声をかけてきた。


「ねーちゃん!昨日はとーとー朝帰りかよ!」


いきなりの核心を突く言葉に、アスカの息が止まりかけた。


「バッ………?!んなワケないでしょーがっ!アンタ、何てコト言ってるの!!」


まるっきりハズレでも無かったので、アスカは動揺を隠せなかった。


しかし、幸いにもそんな心の機微まではケンジには伝わっていない。


「わーってるって!ねーちゃんにそんな度胸あるワケねーもんな〜〜。

……んじゃ、行ってきま〜〜す!」


そう言い残して、ケンジはバレー部の朝練へと出かけていった。


「あっ………、車に気をつけるのよ〜〜〜!」


半ば年長者としての威厳を保つ為に言った言葉は、惜しくもタッチの差でドアの閉まる音にぶつかり、本人に届いたかどうか怪しかった。



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