シルバーの髪を短く揃えたその青年は、ひとつ大きく唾を呑み込んで、慎重にアスカのビキニの肩紐に手をかけた。
アスカは、熱病に犯されたようなぼうっとした表情で、それを見ていた。
───しかしそこで、さまよえる彼女の思考が、「理性」の最後の砦にぶつかったようだった。
アスカの心の中で封印されていた記憶が甦ってきたのだ───。
それは、遠き日の思い出。
夕焼け空の下、肩車してもらっている小さい女の子。
満面の笑みで女の子に語りかける、三十代とおぼしき男性。
「なぁ、アスカ。アスカは、大きくなったら、どんな人のお嫁さんになりたい?」
それを聞いた女の子がふくれっ面になる。
「えぇ〜〜〜っ!アスカ、けっこんなんかしないもん!」
「え?何で?」
心底、不思議そうに尋ねる男性。
女の子は、ちょっと得意になって答えた。
「だってアスカ、おおきくなったら×××××とけっこんするんだも〜〜ん!」
男の笑顔が、さらに広がったようだった。
「………そ、そうか……!
ハハッ、よおし!ウチまでダッシュだぁっ!」
「キャハハハ、落ちるぅ〜〜〜〜!」
(……………………………!!
な、何で今、そんな事思い出すの…………!!)
アスカの心は激しく動揺した。
無意識に、体に力が入ったらしい。彼女の唇を、今まさに奪おうとしていた青年の動きが止まった。
……そして、ちょうどその時。
アスカたちの居る「仮想演出空間」の外で、何の前触れも無く、扉の開く音がしたのだった。
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