廉side


「あれ、母さん仕事は?」


いきなり玄関の開く音と廊下を慌てて走る音が、リビングにいた俺の耳に飛び込んできた。
リビングのドアを勢いよく開けたのは、仕事でいない筈の母さんだった。


「忘れ物して!」


と言葉を吐き捨てる。
リビングにあるテーブルに置いてあった忘れ物とやらを鞄に詰め込み、また着た道を慌てて戻ろうとする。
リビングのドアを閉めようとした母さんはああ!!と大声を上げ、俺を見た。


「ら、来週から出張なの!ゴメンね!お金は置いてくから!」


―バタンッ、ダダダダダダ、バタンッ


おものごく大きな、扉の閉まる音がして俺は少しびっくりする。
慌ただしい人。
と少し苦笑いを浮かべた。