転校生は憧れの人




――……



「おっし。じゃあ次、早速演じてみよう」



読み合わせを全て終え、ひと息つく。


と言っても、まだゆっくり休む時間は得られないようだ。


そんな時、突然吉野くんの顔つきが少し険しくなった。



「ってかやば、あと5分じゃねぇか。……じゃあ、最後に王子様の口付けで姫が目覚めるシーンやっときます」


「あっ……」



思わず声が洩れる。



「どうした、なずな?」


「いや、なんでもないよ」



……とは言ったものの、私の心は激しく動揺していた。


子供の頃に夢見た、白雪姫と王子様のロマンチックなシーン。


いつか私にもあんな王子様が現れてくれたらいいな、なんて思っていた。


だから、そんな素敵なシーンを演じられるなんてとっても幸せなことだ。


けれどそれは、同時に複雑でもあった。


フリだとしても。形だけだとしても。やっぱり、好きな人とじゃなきゃ……。



「一ノ瀬さん、頑張ろうね」


「うん」



優しく声をかけてくれる落合くんに、私は胸が更に苦しくなった。