am.5:52

規則正しい音を発しながら、変わっていく、揺れる窓の外を、座って見ていた。

膝に乗せた、大きな荷物。

少しだけだが、眠った街に光を注ぐ、小さな太陽。

ニ時間ほど前まで、仕事をしていたのに、眠らず、『明日』を迎えてしまってることを、ボー。っとした頭で、考えていた。

手の中は、中身には似合わない、大きな財布を握りしめていた。

am.4:47

急ぐ必要も無いのだが、体よりも、心が早く家を出たがっていた。

安くはない家賃なのに、ボロボロの家。

いつもはかけない玄関の、もう一つの鍵を閉め、靴の紐を足に締めつける。

そうそう。玄関の鍵は意味も無く、二つ付いている。

今日は、遠出をすることもあり、念を入れ、二カ所をロックする。

歩き始めて気が付いたが、辺りを見渡す限り、人は歩いていない。

いるのは、ゴミをあさるカラスくらい。などと、考えていた。

「くそ!!」

声に出してまで、自分の物忘れの酷さに呆れた。

家を出た瞬間、体が心に追い付いたらしく、軽快な足取りで、駅のホームへ向かっていた途中、忘れ物をした事に気が付く。

引き返す足取りは、競歩並だった。

玄関に着いたのはいいが、こんな時に、二カ所もロックしたことが、腹立だしい。

くそ。

靴も脱がず、家に舞い戻るが、暗い部屋の中で、あんな小さな物は、見付からない。

置いてある場所は、分かっていたのだが、仕方なく、電気をつける。

電気が完全に光を灯す前に、それを見つけた。

直ぐ様、財布の小銭入れの中へ入れる。

スイッチoff。

始発の列車に乗ろう。と試みていたのだが、あっさりと、その野望は打ち砕かれた。

諦めもあったが、再度鍵を閉め、歩き出す。

仕事が終わって、公園を通る際に見掛けるホームレス達は、朝には、もういなかった。

実に妙な朝。

誰一人とも会わず、駅のホームへ辿り着いていた。

am.5:58

眠たい。なんて考えはなく、少しドキドキしていたせいか、乾いた目を強く瞑った後、額に皺(しわ)ができるくらい、目を開けてみる。

周りからしたら、変な人に思われるだろうか?

二度も、列車を乗り換え、やっと着いた空港。

僕は、大きな荷物を片手に持ったまま、右手は右へ。左手は左へ。と言ったように、両手を横に伸ばし、涙が出るくらい、欠伸(あくび)をした。