空が茜色に染まり、森の中が薄暗くなってきた頃に、彼女は重い足取りで小さな家の裏口へと向かう。

思いつめるような表情で、扉を開けた。

「おかえり、シルビア」

その聴きなれた優しい声に、心が痛む。

「ごめんなさい、実は私、今日……」

そういって、シルビアは口を噤んだ。

「町の人と関わってしまったのかい」

その言葉に、険しい表情で頷く。

「………花畑で、 ライゼという子に会ってしまったの。 本当に、ごめんなさい」

「謝る事はないよ。あの子は良い子だ。けれど、あまり関わってはいけないよ」

「わかってる。 父さんにも、迷惑をかけてしまうしね」

「……ごめんよ、シルビア。 本当は、友達が欲しいはずなのに」

「気にしないで。 あたしは町の人と関わってはいけない。 これは、宿命だもの。それにキラが居れば、寂しくないから」

説話の真実は深くて暗い、闇の中。それ故に、知っているのは二人だけ。
時の流れと共に、シルビアと「彼」は願う。
その説話が 忘却してゆく事を。