言いながら、口を塞いでやる。今は内心穏やかではないだろうが、そのうち徐々に忘れるだろう。
 巽は一週間も前から時計を付け替えておいたことを今更暴露した自分に苦笑しながら、その長い髪の毛の柔らかな感触を楽しみながら撫でた。
「……」
 食事もそのままに、香月はずっと胸の中で目を閉じている。
 手にした時計を握りしめている姿を見ると、可愛そうなことをしたな、と過去を反省せずにはいられなかった。
 手配しておいた7日連泊の国内スゥイートも、海外用の自家用ジェットも結局使わずじまいだったが今回は仕方ない。
 数か月前から考えてあったこの連休をまさか、
「香月の友人です」
と、堂々と西野誠二が俺に金を借りに来たことに始まり、懲戒解雇の審査やら何やらでタイミング悪くドタバタするとは思いもしなかったが、やはり予測はできなかっただろう。
香月はまだ、西野が金策に走っていることを知らないようだが、下らない関係に陥るのなら、今のうちに俺の手で切り裂いておいた方がいい。
 そのきっかけが「結婚」だったとなると香月は納得しないだろうが、タイミングがそうだっただけで、心内は同じだったのだから仕方ない。
 全く、世話をやかせる女だ……。
「何で笑ってるの?」
 胸に顔をうずめたままの香月が聞いた。
「こちらを見ていないのに、何故分かる?」
「分かるよ、そのくらい」
 香月と知り合って、既に5年の月日が流れていた。
 自分達は、お互いが思っている以上に、お互いのことを知り尽くしているのかもしれない。 


(完)

「クリスマスの夢~絡む指 強引な誘い 背には壁~」に続きます。