「なんか、私って恵まれてるねー……」
 真っ白いふかふかのバスローブを羽織り、リビングの窓から下界ともいえる街を眺めて巽に言った。
「どこが?」
 巽は既に食べた後のようで、テーブルに並べられた食事の隣に腰かけていた。
「なんか、色々……」
 綺麗にセッティングされた食事を見て食欲がわいたが、甘えに任せてソファで寛いでいる巽の胸になだれ込んだ。
「なんか、色々ありすぎて、疲れた……」
 目を閉じると、巽が髪の毛を撫でてくれている感触がよく分かる。
「大したことじゃないさ」
 確かに、巽の人生からすれば、こんなことは大したことではないかもしれない。実際巽が私の立場だった場合、自分の信念は何にも左右されずに、ただ自分の道を行くだけだろう。
「オーストラリア、行けばよかったね……」
「今すぐ出たら、明日の朝には帰れるぞ」
「トンボ返りじゃん」
 香月は笑った。
「あのね……」
 溜息を一つついてきら、巽のシャツを見つめて言った。
「佐伯が今妊娠してる子を養子にしてほしいって言ってきた」
「……」
 巽が何か言うかな、と思って黙っていたが、声は聞こえてこない。
「わけわかんないよ、どうしてそんなことになったのか。
 何で香西店長の子なのか、何で西野さんと付き合うのか、なんで……」
「寂しさを紛らわすためだろう、ただ単に」
「やっぱ、今の子をおろして……」
「もう関わるな」
 厳しい声に、香月は顔を上げた。
「もう関わらない方がいい。お前をアテにしているんじゃなくて、俺をアテにしているのかもしれないしな」
「……お金ってこと?」
 香月は目を伏せて聞いた。
「いいように使われてるんだよ。今の状態は友達とは言えない。同僚とも違う。先輩と後輩でもない」
「…………」