「香西店長が春奈と別れた後すぐ、妊娠が発覚したんだ。どっちの子か分からないけど、どっちとも結婚できないって、だけど一応金持ちの方には下ろしたって伝えて、香西店長の方には何かの時の切り札のために今も隠してる。
けど、春奈は、産むかどうかずっと迷ってた。今日も下ろすとか産むとか不安定だっただろ?」
「けどそれは、西野さんが産めって言うからじゃん!」
 香月はようやく言葉を出した。
「香月が育ててくれるんなら、俺は産んだ方がいいと思う」
「ちょっと待ってよ……」
 香月はすぐに顔を背けた。西野の顔が、男になっているのが分かったからだ。
「前にその養子の話を言い出した時は香月が子供を産めないとか知らなくて。けど、彼氏に結婚してもらえないことだけは知ってたから。
 だから、香月が養子を引き取るっていう可能性は少ないけどゼロじやないかもしれないと思ってた」
「そのために、下ろさなかったっていうの!?」
 香月は西野を睨んだ。
「6か月まで待って、その話が無理そうならおろせに切り替えるところだった」
「どうかしてる」
 西野を正そうと、まっすぐ見つめた。
「それくらい香月のことが好きだってことだよ。他のことはどうだっていい」
「やめてよ!! そんな、佐伯にそんな思いまでさせといて!!」
「別に俺はふざけてなんかない、最初から言ってることは同じだ」
 まっすぐ見つめて言われても、……。
「佐伯は西野さんとやり直すつもりなんじゃないの?」
 最後の望みを託して聞いた。
「そうかもしれない」
「じゃあ西野さんはどうするのよ!?」
 西野はこちらを見て、はっきりとした声で言った。
 それは、佐伯を幸せにできる、そういう誠意の籠った一言であると信じていた。
 だけどそれは、ただの予想だった。
「やり直せるはずなんてないよ。香月に振られた時点で既に、俺の人生は狂ってる」