「言おうか言うまいか、ずっと考えてたんだけどさあ」
「だろうな」
 午前7時に目がさめた香月は、昨日の夜、巽の誘いを
「嫌」
の一言で終わらせたことを完全に忘れて言い始めた。
「もう半日が過ぎたのね……、けど私の中ではだいぶ考えたの、けどね、私の中では一番大切な人があなただってこととか、やっぱり色々あって、それで……」
「昨日は簡単な断りのくせに、言い訳が随分長いな」
 巽は白い枕を背中の下に敷きこむと、身体を少し持ち上げてタバコを手に取った。筋肉質な腹がシーツで見え隠れし、ついつい見とれてしまう。
「で?」
「でぇ……。言わないと我慢できないのよね、やっぱり」
「………」
 前置きが長すぎる、と言いたいのがよく分かる。巽は明らかに不機嫌になり、その辺にあったフェラーリのジッポで火をつけた。
「土地の話、聞いた。中央区の大通の土地。兄さん名義のやつ。そこを今はあなたが借りてて、次はうちの副社長が狙ってるって話」
「それが?」
 巽はこちらを見ずに間髪開けずに聞いた。
「え……だから、彼氏に利用されてるよって、宮下部長に言われた」
「で、否定できずに疑問に思って昨日の有様か」
 巽はこちらを睨んだが、
「いや、私はプロポーズを断られたからそんなことはないと思いますって言った。だって、もし、私があなたであそこの土地が欲しいのなら、私をうまく手なづけて、結婚しなくても、もっと大事にして、優しくして、言うことを聞いてくれて、ってなると思うの。けどあなたは全く反対だから、利用されてないことは、私が一番よく分かってる」
 理論的にしっかりと言い切ったつもりだが、
「で?」
 と、巽は眉間に皴を寄せた。
「……でえ……。副社長はあそこの土地が欲しいから、私を飼ってる、とか。けど、そのことを他言したらダメだぞって言われた。宮下部長が副社長に首を切られるからって」
「では何故、その、宮下部長はお前にそんなことを言った?」
「私、そもそも店舗に戻りたいから。けど、本社で飼われたままになると、また嫌気がさして……、その……まあ、不機嫌になるだろ、みたいなことでね」
「仕事放棄して遊びに行くだろってことか」
「とは違うけどね」
 即言い返したが、言っても言わなくても何も変わらなかったかもしれない。
「まあ、お前と宮下部長の仲はよく分からんが」
「単純明快、部下と部長」
「あの土地は四対も絡んできている。もし俺なら、お前と結婚して、あの土地を物にし、四対を客にして大儲けをするだろうがな」
「…………へー……あれ? 結婚しなくて良かったのかもしれないね」