「そんな、土地一つで……」
 テーブルを見つめた。白いテーブルは傷だらけで、綺麗に拭いてはいるが、使い古されていることが、よく見れば分かる。
「そんな、土地一つで、私の人生がそこまで狂うはずがない!!」
 涙が溢れた。
「狂ってないよ。俺が助けてるんだから」
 宮下はまっすぐこちらを見つめて言った。
「香月は、大事な部下だから。揉め事が多いし、すぐにトラブルに巻き込まれるし、首突っ込むし、周りの人はみんなそのドタバタに巻き込まれるけど」
「……私、何もしてません……」
「そんなことないよ、十分引っ掻き回してくれる」
 宮下は笑った。
「それで、土地のことは、副社長は、香月を手中に置けばなんとかなると考えている。彼氏も同じかな、そこは俺の推測だけど」
「でも私、プロポーズして、振られました。何度も。だから多分、違うと思います」
 ほんの、1年前までそうだったんだから。だってもし、巽が利用しようとして、私の側にいるのなら、もっとうまく、手なづけておくに違いない。
「……じゃあ、違うのかもな」
 宮下は、言うだけ言って、立ち上がった。
「悪いな……また泣かせて……。けど、今日は謝りに行けない」
 おもむろに年季が入ったロレックスを見てはいるが、どうせどちらにしても、謝る気はないだろう。
「いいです、いつものことですから」
 香月も立ち上がった。ジュースは半分以上残っているが、今は何も口につける気がしなかった。
「くれぐれも頼むよ、香月を信じている。副社長に俺が他言したことがバレたら、俺は簡単に首だよ」
 宮下は笑って言ったが、どうも冗談ではなさそうだった。
「…………」 
 うまく返事ができないまま、頭を少しだけ下げる。
 いつもの、宮下らしくなかった、と思いながらその後ろ姿を見つめ、溜息を一つ吐いてジュースの缶をそのまま捨てた。