巽に本社まで送ってもらい、10時から参加した審査会議は、宮下の付き添いによって、実にスムーズにうまく進んだ。時間は30分くらいだったと思う。
会議室の長椅子に座った数名の監査員に「違います」や「分かりません」の事務的で否定的な事実を述べただけで、後は宮下の防犯カメラの映像が全てを物語っていた。
無事会議は終わり、宮下は
「予定通りに事が進んで良かった」
と、晴れた表情を見せた。
 それと同時に、西野の刑が確定したかと思うと、全く心は晴れなかったが、これも仕方のないことだと、自分に言い聞かせた。
 今後の話を、もう少しだけしたいと宮下に言われ、今は誰もいない食堂で2人、缶コーヒーとジュースをそれぞれ手に持ち、椅子に腰かける形となっている。
「下で待ってるんだろ? 手短に話すよ」
 宮下は、何とも思っていないとは言い難い雰囲気で、こちらを見つめて言った。
「午後から西野の審査をして、夕方には懲戒解雇の流れになる」
「えっ、もうですか!?」
 香月は驚いて宮下の顔を見た。
「ああ、西野は今日付けでここを辞めることが決まっている」
 午後の審査の後に、というのは既に形だけらしかった。
「俺は香月を信じているからその必要もなかったんだけど、副社長に必ず香月を救うように言われて……。いや、言われなくても防犯カメラの確認とかはしたと思うけど」
「えっ……」
 思いもよらない突然の暴露に、香月は動きを止めた。
「今日の審査会に俺が出られるように手配したのは副社長だった。どうやら香月はかなりのお気に入りみたいだからな」
 宮下は無表情だ。何が言いたいのか、よく分からない。
「……私も、副社長が私に期待しているって言いましたけど、何を期待されているのか全く分かりません」
「土地だよ」
 宮下は即答した。言い出すのを待っていた、とでもいうように。
「土地? ……」
 香月は意味も分からず、繰り返した。
「この話は副社長に口止めされている。だけど、これは香月には直接関係がないことだし、俺からのことだと口を割らないと信じて言う。……でないと、何を期待されているのかも分からずに、副社長に飼われているとなると、また、横道にそれないとも限らないし」
 飼われる、の意味が分からずにただ眉間に皴を寄せて黙った。
「昨日、彼氏に会わなかったら言わなかっただろうけど……」
 セイ・リュウのことを悪人だと思っていた宮下が巽を見て何をどう感じたかは分からなかったが、黙って続きを待った。
「日本の中心部である中央区の大通りの土地。あそこの土地を副社長はずっと前から狙っている。今は香月の兄さんの名義だ」