しかも、そんな秘密めいた場所に、どうして私を呼んだのだろうか……。
 そう、それが一番不思議だ。やましいことなら、隠しておくのが普通だ……ということは、やはり何もないということなのだろうか。
「あんた誰?」
 突然背後から声をかけられて、驚いて振り返った。
「えっと、あの……その……」
 まだ20歳そこそこの、完全にキメたファッションモデルのような男が近づいてきていた。
 姉と顔が似ている。一瞬でこの人物が四対だと確信した香月は、名刺を持ってないことを思い出し、無断で入ったと思われないかと不安になって、早口になる。
「あの、友人があの、その千さんという人と知り合いで……」
「総二郎の?」
「え? あ、はい……それであの、その千さんと私の友人の……最上っていうんですけど、その2人はあっちの方でビリヤードをしてるんです、けど……」
「あんたは何でしないの?」
 どう見ても香月より年下なのに、この態度。富と地位で人はこうなってしまうのだといういい見本であった。
「何でって……別に、意味はないですけど……」
 食い入るように見つめてくる瞳は大きく、また、睫毛も長い。ほりの深い顔立ちはクゥオーターではないかと予想させた。
「できる? ビリヤード」
「いえ……あの……」
 ルールも知らない自分を恥ずかしく思い、目を伏せた。こんなことなら、巽に手ほどきをしてもらっておくべきであった。
「できる?」
 四対は強い口調でもう一度聞いた。
「あの、できません。したことないです……」
 一度くらいはどこかであったかもしれないが、もう面倒だと思って素直に負けを認めた。
「教えてやるよ。ちょうど暇だったし」