絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

「ということは、私が疑われていたんですか!?」
「といとうことになる」
 宮下は真っ直ぐこちらを見据えた。
「だけど、いくら香月が腐っていようとも、そんなことはしないと俺は信じていた」
 言われてみれば、その時は全く仕事をしていなかった時期だ。疑われても当然なのかもしれない。
「それに、金に困っていたとしてもしないだろうし」
「すみません……」
 頭を深く下げた。
「それで、防犯カメラを調べた。まあ、俺がしなくても誰かがしたんだろうけど」
「すみません……」
 更に深々と頭を下げた。
「香月にも出てもらうよ。審査会議に。できれば明日」
「明日ぅ!?」
 って明日まだ有給なんですけど……。
「早い方がいい。身の潔白を証明するためには。それに、俺が付き添って、証拠の防犯カメラの映像を出すから」
「あ、ありがとうございます……」
 言いながら、頭をもたげた。
「はー…………」
 宮下の話が一段落し、しばらく呆然として遠くを見つめた。
 頭は何にも機能しない。
 宮下もそれに付き合うように、静かにコーヒーをただ飲んでいる。
 西野が交通事故に遭って以来、ほとんど行き来はなく、病院にも数回佐伯と見舞いに行った程度で、その後のことは佐伯からの話を又聞きするだけだったが、今まで、この7年近くは、西野はいつも近くにいた。
 職場が離れても、一緒に食事に行く回数は減らなかったと今更思い出す。
 そんな西野が特に変わったのは、幼馴染とルームシェアし始めてからか……。
 子供を引き取り、離婚して、男手1人で育て上げていくことに不安を感じたのだろう。そうとしか思えない。
 いや、今回まず私が疑われたということは、西野が私に罪を着せようとしたのか……。
 しかし、防犯カメラを見て確認されることは容易に想像できるので、本当に罪を着せるつもりではなかったのかもしれないが、その意図を思い知らせようと考えたのか……。
 それにしても、代償が懲戒解雇となれば、復讐にしてもやりすぎている。
 働き手の西野の場合、将来が大きく変わることは、予想するまでもない。
「懲戒解雇って、どういうことなんですかねえ……」
 随分時が経過してから聞いた。
 言葉は幾度も聞いたことがあるが、それが実際どのように西野に適応されるのか、はっきりとは分からなかった。