「あの頃はなんというか……、なんだろう。仕事が楽しかったのかなあ……。仕事に生きていたかった。けど今は違う。本社って全然面白くないし。給料がちょっと上がったからって割りに合わない」
「けど出世なんやろ?」
「そんな別に……、気にしてないよ」
「辞めたい?」
「……わかんない。辞めたいのかもしれない。私がやめて、佐伯が入れるってゆんなら辞めるって、宮下部長に言ったことはある。けど、佐伯では本社は無理だって言われて……」
「いやいややったって、何にもならんだろう」
巽は、まっすぐとこちらを向いていた。
「じゃあやめようか?」
香月は問う。
「何のために仕事をしている?」
「何のために……生きていくため? でも今は貯金もまあまああるし……。
最初は、私、推薦で本社に行ったから、その人の手前、辞められないと思ってた。かな……。けど今はどうだろう……」
視線を落として考え始めたところで、携帯が鳴りはじめた。
香月はバックに手を突っ込み、かき回してから、慌てて携帯を開く。
「宮下部長だ……」
そのまま受話ボタンを押した。
「もしもし」
『もしもし、休みの所悪いんだけど、少し急ぎの用があるから。今日中に少し話を聞きたいんだけど』
命令ともいえる強めの口調だ。
「はい、大丈夫です。会って話をしましょうか? 私も相談したいので」
『あぁ、悪いな、有給のところ。とんでもないことになって。近くにいるのか?』
「はい、今自宅にいます。どこにしましょう?」
『俺は今まだ会社だから。けど、いつでも出られる』
「私もええと、今から桜美院に一度寄ってからになりますけど」
『じゃあ24時間カフェにしようか。ええと、6時くらい。またそれから会社帰るから』
24時間カフェは桜美院には近いが、会社からは少し遠い。
「私が会社の近くまで行きます。その近くのカフェでいいです」
『そうか? 悪いな。けどそうしてくれると、助かる』
「いえ……では、近くになったらまた電話します。そうですね、多分6時前にはなると思います」
宮下の口調は実に事務的だった。会社のデスクからそのままかけているのだろう。
「私、ちょっと今から桜美院寄ってから中央ビルまで行くから……」
「けど出世なんやろ?」
「そんな別に……、気にしてないよ」
「辞めたい?」
「……わかんない。辞めたいのかもしれない。私がやめて、佐伯が入れるってゆんなら辞めるって、宮下部長に言ったことはある。けど、佐伯では本社は無理だって言われて……」
「いやいややったって、何にもならんだろう」
巽は、まっすぐとこちらを向いていた。
「じゃあやめようか?」
香月は問う。
「何のために仕事をしている?」
「何のために……生きていくため? でも今は貯金もまあまああるし……。
最初は、私、推薦で本社に行ったから、その人の手前、辞められないと思ってた。かな……。けど今はどうだろう……」
視線を落として考え始めたところで、携帯が鳴りはじめた。
香月はバックに手を突っ込み、かき回してから、慌てて携帯を開く。
「宮下部長だ……」
そのまま受話ボタンを押した。
「もしもし」
『もしもし、休みの所悪いんだけど、少し急ぎの用があるから。今日中に少し話を聞きたいんだけど』
命令ともいえる強めの口調だ。
「はい、大丈夫です。会って話をしましょうか? 私も相談したいので」
『あぁ、悪いな、有給のところ。とんでもないことになって。近くにいるのか?』
「はい、今自宅にいます。どこにしましょう?」
『俺は今まだ会社だから。けど、いつでも出られる』
「私もええと、今から桜美院に一度寄ってからになりますけど」
『じゃあ24時間カフェにしようか。ええと、6時くらい。またそれから会社帰るから』
24時間カフェは桜美院には近いが、会社からは少し遠い。
「私が会社の近くまで行きます。その近くのカフェでいいです」
『そうか? 悪いな。けどそうしてくれると、助かる』
「いえ……では、近くになったらまた電話します。そうですね、多分6時前にはなると思います」
宮下の口調は実に事務的だった。会社のデスクからそのままかけているのだろう。
「私、ちょっと今から桜美院寄ってから中央ビルまで行くから……」

