絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

 ユーリは意味もなく頷く。
「……といっても、私に用もないんだけどなあ……」
「最近は家庭訪問されるようなことはしてへん??」
「してないよ! しかも今日だって有給ちゃんととってるし!! ……ちゃんと受理されてなかったのかな…」
「電話かけて聞いてもえんちゃう? 俺から聞いたんやけどーって」
「そうよね……」
 香月はソファに話しかけた。
 その間ももちろん巽は黙ってコーヒーを飲んでいる。
「あーあ……台無しだね……これならオーストラリアでも行けばよかった……」
 香月は本音をぽろりとこぼした。
「まあまあ、おってくれな、俺1人ではどうにもならへんかったし、ほんま」
「オーストラリアくらい、いつでもいける」
 一番行ってくれない巽は、そうやって簡単に言ってのける。
「だねー……」
 香月はしらーっと、そっぽを向いた。
「それにしても、家庭訪問、とは?」
 巽はユーリに聞いた。
「えっ、ああ……その昔……」
 だが香月が遮る。
「あのね、えーっと、あの日も多分私はちゃんと仕事してたんだけど、途中でなんだか嫌になっちゃって。もう帰りますって帰ろうとしたら、偶然本社の前で佐伯に会って、その近くにいた佐伯の友達と3人でディズニーランドに行ったの。だから、家庭訪問とか、特に関係ないんだけどね」
「……」
 巽はコーヒーを飲みながら、少し眉を寄せた。
「けどさ、この前四対さんに言われた。真面目に仕事しろって」
「……昔はそんなんやなかったのにね……なんか、本社に行って、変わった気がする。なんか昔はさ、仕事仕事で休めへん休めへん、休みの日でも途中で行ったり、研修やとか、勉強もしてたやん。あの頃からしたら、……なんかどうやんやろう。自由になった??」
 ユーリは首を傾げながら聞いた。
「……」
 香月はまず、溜め息をつく。