絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ


「どうぞどうぞ」
 この東京マンションのリビングで、まさかユーリが、私と巽のコーヒーなんか用意しちゃってる日が来るとはまさか夢にも思わなかった。
「うわー、ごめんね、ありがとう!!」
 一旦荷物を取りに帰るということになり、佐伯から受けたメモを持って巽と一度家に帰ることにしたのだが、その際、ユーリに電話をすると仕事の予定が変わり、自宅にいるから彼氏も呼んだら? と、まさかの提案を受けたのだった。
 香月は巽をソファに座らせ、笑いながら続ける。
「どういうサービス??」
「いや、俺も欲しいから(笑)」
 1つだけ来客用のカップでコーヒーを出し、ただのグラスにはオレンジジュースを、ユーリの分はいつものマグカップに入れていた。
「いやまあ……。3人で飲もうよ……良かったら」
「……あ、そう?」
 ユーリ的の中でどういう心境の変化があったのかは分からないが、香月的には巽とユーリを合せるということで、一気に距離が縮まった気がした。
「あ! そうそう! 朝、宮下さんが来たよ」
 ユーリは口をつける前に思い出した。
「え!? ここに!? 佐伯に会いに!?」
「うん」
「え゛―!? ……えー!!!」
「な、なんやの??(笑)」
「どうしよう……」
 香月は悲鳴を上げた後、両手で自らの顔をはさんで、宙を睨んだ。
「何??」
 ユーリは困惑しながらも、コーヒーを一口飲んだ。
「佐伯が……、子供の相手が……妊娠の相手が、結婚できない人って言ってた……」
「えっ、宮下さん結婚してるの!?」
「……」
 香月は目を見て頷いた。
「えー……いやあ……俺もどんな話したんかは知らんけど……まあ、その時もコーヒーは出したんやけどね」
「(笑)、もうコーヒーショップの店員じゃん(笑)」
「これからはマスターと呼んで! やなくてね、で……何話してたっけ? あ、そうそう!! で、宮下さんが来て……なんか話してた。少し」
「………」
 香月は、大げさにソファになだれ込んだ。
「いやでも……最初は香月さんいますかって来たんよ、そうやそうや!!」
「私を訪ねて??」
「三千里」