絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ


「大丈夫!?」
 ユーリへの第一声が、その言葉で合っているのか考える余裕もなかった。
「今帰って来てる。子供と部屋の中におるよ」
 ユーリは、病室の前のベンチでちゃんと待っていてくれた。というか、ここは産婦人科病棟なので、病室には入りづらいのかもしれない。
「ありがとう、ごめん。いてくれて、助かった」
「俺は別になんもしてないよ。普通にトイレから出てきて、出血したから病院行くって言うから。タクシーも心配やし、送って来ただけ」
「あそう……元気そうなの?」
「まあ、普通に歩いて車に乗ったし……、見た目、変わりない」
「……子供は流産してないの?」
「してないけど、しばらく入院ちゃう?」
「まあ、手術だからね……え、愛花ちゃん、どうするの??」
「……さあ……」
 24時間保育園……という聞きなれた言葉がすぐに頭に浮かんだ。
「……とりあえず、中入ろうか……、大丈夫かな?」
「うん。俺、もう帰ってもええかな? 夕方から仕事やから」
「あ、そうだね、うん、ごめん、本当ありがとう。私も妊娠してたの知らなくて……、ごめんね」
「ええよ、別に。けが人助けるのなんか当たり前よ」
 ユーリは笑って、廊下を進んで行ってくれる。側にいてくれたのが、ユーリでよかった……。
 一通り胸をなでおろしてから、病室に入る。そこは、6人用の大部屋であった。一番手前に彼女の名前が書かれた札が見えたし、奥はパーティションで仕切られているので何人入っているのか分からないが、大声を出せないことには変わりない。
「大丈夫?」
 香月は巽に車に戻るよう提案して1人、そっと、カーテンを開けながら言った。
「なんとか」
 ベッドに横たわっていた佐伯は病院の寝巻きのまま、少し体を浮かせるようなそぶりを見せた。
 子供はちらとこっちを見ただけで、ベッドの横の簡易椅子に腰掛け、母親の指で手遊びをしている。
 その、表情は、暗い、とも明るい、ともとりがたい。
「……おろしには行かなかったんです」
「そうだよね……」